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東京地方裁判所 平成10年(ワ)19907号 判決

原告 株式会社レインボースター

右代表者代表取締役 金田聖一

右訴訟代理人弁護士 石原修

同 升本喜郎

同 菊田行紘

同 森崎博之

同 行方國雄

同 加畑直之

被告 イタルコム・グループ・エスアールエル

右代表者代表取締役 ルオーズィ・エンツォ

右訴訟代理人弁護士 中本光紀

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

1  被告は、原告に対し、金一億七二八八万三〇〇一円及びこれに対する平成一〇年一一月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

1  主位的答弁

主文と同旨

2  予備的答弁

本件訴訟手続を中止する。

二  事案の概要

本件は、日本国法人である原告が、イタリア国法人である被告に対し、原、被告間で締結された請負契約(被告が自動車の内装等の改造をすることを内容とするもの)に基づき、被告がした作業が不完全で内装等に瑕疵があり、被告の債務不履行によって損害を被ったと主張して、その損害の賠償を求めたところ、被告が、本案前の抗弁として、本件の訴えについては、我が国の国際裁判管轄を否定すべきであり、また、国際的二重起訴に該当するから、不適法であると主張して、本件訴えの却下を求めた事案である。

三  当事者の主張

(請求原因)

1  当事者

原告は、昭和五九年九月に設立された日本国法人であり、自動車及び関連商品の輸入販売、映像機器・関連商品の輸出入並びに賃貸ビル経営等を業とする株式会社である。

被告は、イタリア国モデナ市に所在するイタリア国法人であり、家具の製造及び販売並びに自動車の内装改造等を業とする会社である。

2  請負契約の締結

原告は被告との間で、平成八年一〇月、原告が訴外日本エム・アイ・シー株式会社(以下「日本MIC」という。)から購入する自動車(メルセデスベンツ社製スプリンターモデル及び同社製ヴィットモデル。以下「本件自動車」という。)について、被告が、車体部分以外の各種部品の取付け、組立て及び内装全般の作業(以下、これらを「本件作業」と総称する。)を行い、本件作業完了後、原告に本件自動車を引き渡す旨の請負契約を締結した(以下、右請負契約を「本件請負契約」という。)。

3  被告の債務不履行と原告の損害

(1) 内装革張りのはがれ

平成九年四月から八月にかけて原告が被告から引渡しを受けた本件自動車のうち、ヴィットモデル一七六台の内装革張り部分がはかれていた。

原告はこれを知らずに顧客に右ヴィットモデルを販売し、引渡したため、原告は顧客らを訪問し、右内装革張りのはがれた部分を接着剤で止める等の修復措置を施した。

原告が支出した右修復のための費用は、合計一七六〇万円を下らない。

(2)内装パネルの交換

原告が被告から引渡しを受けた本件自動車のうちヴィットモデル二二六台には内装パネルに欠陥があり、内装パネルを交換する必要がある。

右交換のために原告が負担すべき費用は、別紙一記載のとおり、合計九〇四〇万円である。

(3) 前部座席の台座交換

原告が被告から引渡しを受けた本件自動車のうちヴィットモデル六六台については、前部座席の台座に欠陥があり、交換せざるを得ない状況にある。

右交換のために原告が負担すべき費用は、別紙二記載のとおり、合計一三二〇万円を下らない。

(4) その他の暇疵

右(1)ないし(3)のほか、原告が被告から引渡しを受けた本件自動車には別紙三記載の暇疵があり、右暇疵の修補のために原告が支出した費用は、平成九年一二月末日現在で、合計一四七八万一一九〇円である。

(5) 部品の追加調達

原告は、別紙四記載のとおり、本来被告が負担すべき部品の追加調達に関する運送費、通関に要する費用、税金等の合計一五〇万一八一一円の立替払をし、これを負担した。

(6) 顧客からの契約解除

原告は、別紙五記載のとおり、顧客五社から、本件自動車のうち合計五九台についての売買契約を解除され、この解除により、原告は一台当たり、少なくとも六〇万円の得べかりし利益を喪失したことになり、その総額は三五四〇万円を下らない。

(7) まとめ

以上のとおり、原告は、被告の本件作業の不完全な履行により、少なくとも、合計一億七二八八方三〇〇一円の損害を被った。

4  よって、原告は、被告に対し、本件請負契約の債務不履行(不完全履行)に基づく損害賠償請求として、一億七二八八万三〇〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一一月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の本案前の抗弁)

1  我が国の国際裁判管轄の欠如

本件訴訟については、次のとおり、我が国には国際裁判管轄がない。

(1) 本件訴訟は、イタリア国において締結された請負契約に関連する債務不履行に係るものであって、日本の民訴法に定める裁判籍のいずれも日本国内には存在しない。

(2) 被告の設立準拠法所属国、被告営業所の所在地、請負行為地、目的物引渡地、代金支払地などがすべてイタリアにあるから、本件請負契約の準拠法はイタリア法である。

被告との間で本件請負契約を締結した相手方は、原告ではなく、日本MICである。

すなわち、日本MICがメルセデスベンツ社から本件自動車を購入し、これをメルセデスベンツ社の工場からイタリアの被告モデナ工場へ輸送、搬入し、被告が本件作業を終えた後、同工場において日本MICが依頼した乙仲業者(乙種海運仲立業者)であるメルザリオ・エス・アール・エル社(以下「メルザリオ社」という。)に本件自動車を引き渡し、同社が日本に輸送し、本件自動車が日本に陸揚げされた後、原告は日本MICの総代理店として日本MICから本件自動車を買い受け、これを日本の顧客に販売したものであり、日本MICは、本件自動車の購入者、所有者であるだけでなく、被告に対する本件作業の注文者であった。

右のとおり、本件自動車の引渡しの相手方は日本MIC(直接的には同社の依頼したメルザリオ社)であり、引渡場所はイタリア国内であって日本国内ではない。後に原告のクレームに応じて被告の担当社員が来日して瑕疵修補を行ったのは被告の誠意にすぎず、瑕疵修補の履行地も本来はイタリアである。

(3) 原告が、日本における被告の営業所であると主張するイタルコム株式会社(日本国法人)は、被告とは全くの別会社であり、被告は日本に子会社ないし営業所を有していない。

(4) 被告が、イタリアの裁判所に、原告と日本MICを被告として提起した訴訟(以下「本件イタリア訴訟」という。)において、原告は、本件訴えと訴訟物が同一の反訴を提起しているから、本件訴えについての我が国の国際裁判管轄が否定されても、原告には格別の不利益はないのに対し、被告は、資本金約七〇〇万円、従業員約一〇名のイタリアの小規模会社であって、日本での本件訴訟への応訴を余儀なくされることは、被告にとって手続保障に欠ける。

(5) 契約関係の文書がイタリア語(一部英語)により作成され、多くの証人がイタリア語を母国語とすることなどに照らせば、容易、迅速、低廉な審理の実現の観点からイタリアが法廷地とされるべきである。

(6) 被告は日本に財産を有しないから、たとえ原告が本件訴訟において勝訴しても、最終的にはイタリアで執行判決を求めることになり、その判断は本件イタリア訴訟の判断と矛盾し得ない。

2  国際的訴訟競合

また、本件訴訟は、前述のように、いわゆる国際的二重起訴の状態にあるところ、国際的な二重起訴の場合に、先行する外国訴訟について本案判決がされてそれが確定に至ることが相当の確実性を持って予測され、かつ、その判決が我が国において承認される可能性があるときは、判決の抵触の防止や当事者間の公平、裁判の適正・迅速、訴訟経済といった観点から、二重起訴の禁止の法理を類推して、後訴を規制することが相当とされる場合がある。

被告は、本件訴訟の提起に先立つ平成一〇年四月二八日、原告及び日本MICに対し、原告らの債務不履行に基づく金銭支払等を請求する本件イタリア訴訟をイタリア国モデナ裁判所に提起しており、本件イタリア訴訟の本案判決がされてそれが確定に至ること、かつ、民訴法一一八条各号の要件が満たされて、その判決が日本において承認される可能性が極めて高い。

3  したがって、本件訴訟については、我が国には国際裁判管轄がなく、また、国際的二重起訴として不適法であるから却下されるべきであり、仮にそうでないとしても、本件イタリア訴訟の判決が確定し、右判決の承認要件の有無が確認されるまでの間、本件訴訟の手続は中止されるべきである。

(本案前の抗弁に対する原告の反論)

1  国際裁判管轄について

本件訴訟については、次のとおり、我が国に国際裁判管轄があるものというべきである。

(1) 本件訴訟は、原、被告間の本件請負契約についての債務不履行に基づく損害賠償請求であり、被告の損害賠償債務は、契約に特に定めはないから、持参債務となり、原告の本店所在地である東京が民訴法五条一号の義務履行地となるので、我が国の国際裁判管轄が認められるというべきである。

(2) 本件請負契約の内容及び契約締結の過程に照らすと、我が国の国際裁判管轄を認めるのが妥当である。

すなわち、契約締結の過程等からみても、原告と被告間には、本件請負契約の完成物引渡しの義務履行地、瑕疵修補義務の履行地を日本とする旨の合意があるというべきであって、現に被告は、来日して暇疵修補を行っており、そもそも、本件請負契約の交渉は、被告の日本における営業所であるイタルコム株式会社が原告との間で行ったものである。

(3) 被告は、国際的規模で事業を展開しており、日本国内においても、イタルコム株式会社という営業所を東京都内に有しており、活動の拠点を有しているから、本件訴訟の審理を日本の裁判所において行うことは、被告に対し不利益を強いるものではない。

(4) 原告は、イタリア国内には何らの営業所、出張所及び子会社等を有しておらず、本件イタリア訴訟のみを続けさせることは、原告にとって、実質的な手続保障を欠く結果となる。

(5) 本件の債務不履行で問題となった瑕疵ある本件自動車は、すべて日本国内に存するものである。また、暇疵ある本件自動車の販売先もすべて日本国内であり、証拠の収集の便宜を考慮しても、本件訴訟の国際裁判管轄は我が国にあるというべきである。

(6) 原告は、イタリアには何らの財産を有していないから、執行判決を求めなければならないことは、国際裁判管轄の決定に当たっては理由にならない。

2  国際的訴訟競合について

本件イタリア訴訟は、被告が原告に対し、原告が本件自動車の発注をキャンセルしたことなどに基づく損害賠償等を請求している事案であり、本件訴訟とは訴訟物が全く異なる上、実質的な審理は、ほとんど行われていないし、本件イタリア訴訟において、原告が答弁書で、被告に対して損害賠償請求権を有する旨主張していることを反訴と捉えたとしても、本件訴訟の提起(平成一〇年九月一日)の方が右答弁書による主張(同年一二月二二日)より先行しているから、二重起訴禁止の問題は起こり得ない。

また、そもそも、国際的二重起訴を規制する実定法上の根拠はない。

四  当裁判所の判断

1  本件において、被告は、原告の本件訴えにつき本案前の抗弁として、我が国には、国際裁判管轄がない旨主張するので、以下、この点について検討する。

2  証拠(甲二、三、五、一〇、一一の1ないし3、一二ないし一九、乙一ないし一〇、一六ないし一八)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められるω

(1) 原告は、平成六年ころ、東京都内に本店の在るイタルコム株式会社(日本国法人)からイタルコム製の家具を原告のオフィス用として購入したことがあった。

原告は、そのころ、メルセデスベンツ社の商用車を輸入して販売することを計画していたが、右自動車の内装の改造について検討していることをイタルコム株式会社の営業担当者に述べたところ、同人は、原告に対し、右内装の改造の作業を被告に任せるように申し出た。その後、被告は、平成七年五月一三日ころ、イタルコム株式会社を通じて原告に対し、メルセデスベンツ社のスプリンターモデルの内装改造についての提案と共に写真、カタログ、図面及び見本を送付し、更に、同社から小型のヴィットモデルが新たに発売されたことから、右モデルについても、被告は、内装改造についての提案をし、平成八年七月ころには、被告から原告に対し、被告が内装を改造した右モデルの見本車が届けられた。

(2) 原告は、被告との間で、右自動車の内装改造に関する契約交渉を進めたが、その後、日本MICが右契約に関与することとなり、日本MICがメルセデスベンツ社から購入した本件自動車について、被告がイタリアの被告モデナ工場で内装改造作業を行った上、本件自動車の輸入後、原告が日本MICから本件自動車を購入することになった。原告は、被告への請負代金支払のために、日本MICに信用状の開設手続の準備を依頼した。なお、右契約交渉において、被告は、原告に対し、被告のモデナ工場渡しを前提とした価格を提示していた。

被告は、平成八年一〇月初旬、本件自動車の内装改造に関するレター・オブ・インテント(甲五)を作成し、これを原告に送付した。原告は、数字等を若干修正した上で、代表取締役である金田聖一が右書面に署名し、これを被告に送付することにより、本件請負契約の基本的内容が定まった(その内容は、右交渉内容を前提とするものであった。)。その時点では、平成九年四月中に、原告、日本MIC及び被告の三者間で、正式な契約書を作成する予定であったが、右書面作成直後から、個別の注文が始まり、被告側でも内装改造作業を開始したため、結局、正式な契約書は作成されなかった。

本件請負契約においては、準拠法を日本法とする旨の合意やその債務(本件作業を施した本件自動車の引渡債務・暇疵修補債務)の履行場所を日本国とする旨の合意は、いずれもされなかった。なお、右レター・オブ・インテントには、被告モデナ工場への本件自動車の車体の毎月の引渡しはコンバート(内装改造)された車体の「日本又はその他の場所への引渡し」の六〇日前になされる旨の記載があるが、右記載は、その文言からも明らかなように、被告の原告に対する改造された本件自動車の引渡債務の履行地を日本とする旨の定めではなかった。また、請負代金額は、被告の工場渡し価格で決められ、通貨はリラで支払われることになっていた(乙四)。

被告は、イタリア国法人であり、本件請負契約に関する交渉やファックスでのやり取りは主として英語で行われた。

被告の営業規模は、過去において七〇名程度の社員を有していたこともあるが、日本でのバブル経済の崩壊、アジアでの経済危機の発生等により家具の輸出が激減し、現在では資本金九八〇〇万リラ(約七〇〇万円程度)、従業員一〇名程度の小規模会社となっている。いわゆるイタルコムグループとされていたイタルコムジャパン、イタルコム香港、イタルコム韓国(現在は存在しない。)、イタルコム台湾(現在は存在しない。)及びイタルコムマレーシアは、いずれも被告との資本的関係はなく、これらの会社は、それぞれの国における被告の家具の販売代理店であった。

(3) その後、本件請負契約に基づき、日本MICは、メルセデスベンツ社から本件自動車を購入し、日本MICの依頼を受けた乙仲業者のメルザリオ社がこれらの本件自動車をイタリアの被告モデナ工場へ輸送、搬入した。

被告がモデナ工場で本件自動車についての内装改造作業を終えた後、メルザリオ社は、同工場において、被告から本件自動車を受け取り、これらをジエノア港ないしラスペシア港へ陸送した。その後のイタリアにおける輸出通関手続、日本向け船舶への船積みの手配等を行ったのもメルザリオ社であり、日本における輸入通関手続等を行ったのは、日本メルザリオ社(メルザリオ社の関連会社)であり、両社に対する右委託業務に要する費用等を支払ったのは日本MICであった。

(4) その後、原告が販売した本件自動車に不具合が発生したが、原告から、被告が日本でその修補を行わないと、それ以降の発注をしない旨の通告を受け、交渉の結果、被告は、自己の負担で、平成九年七月から一〇月にかけて、修理スタッフを二回、日本に派遣し、イタルコム株式会社の社員と共に修補作業を行った。

(5) 被告は、本件訴訟の提起日(平成一〇年九月一日)前の同年四月二八日、イタリア国モデナ裁判所において、原告及び日本MICを共同被告として、<1>日本MICに対し、同社が被告に依頼した本件自動車の内装改造作業に係る請負残代金二九一四万一三一八リラの支払を、<2>原告に対し、原告が被告に依頼した本件自動車の内装改造作業に係る請負残代金等二億七三五二万七一四二リラの支払を、<3>原告に対し、原告が被告に対して損害賠償として支払を約していた一五〇〇万円の支払を、<4>原告及び日本MICに対し、右両者が被告に対し合計一〇五台のバンの改装作業を注文する旨約束したにもかかわらず、実際には、右バンを納入しなかったことにより、被告が被った損害一二億二〇〇九万四九一五リラの支払を、それぞれ求める本件イタリア訴訟を提起した。

これに対し、原告は、同年一二月二二日、右モデナ裁判所に「趣意・答弁書」を提出して応訴し、右書面により被告に対する反訴を提起した。右反訴の内容は、原告が日本MICから購入した本件自動車について被告が行った本件作業に欠陥があるとして、これにより原告が被った損害、合計三六億六六六二万二〇〇〇リラの支払を請求するというものであり、本件訴えとその内容を同じくするものである。

本件イタリア訴訟は、右反訴を含め、現に係属中である。

以上の事実が認められる。

3(1) 被告が我が国に住所を有しない場合であっても、我が国と法的関連を有する事件について我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは否定し得ないところであるが、どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては、国際的に承認された一般的な準則が存在せず、国際的慣習法の成熟も十分ではないため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。そして、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成五年(オ)第一六六〇号平成九年一一月一一日第三小法廷判決・民集五一巻一〇号四〇五五頁参照)。

(2) これを本件についてみるに、原告は、<1>被告が日本に営業所を有すること、<2>本件請負契約の効力についての準拠法は日本法であり、本訴請求に係る本件請負契約の債務不履行による損害賠償債務の履行地は債権者である原告が住所を有する東京であることを理由として、我が国の国際裁判管轄を肯定すべき旨主張する。

そこで、まず、原告の右<1>の主張、すなわち、東京都内にあるイタルコム株式会社が日本における被告の営業所であるとの原告の主張についてみるに、証拠(乙一四、一六)によれば、イタルコム株式会社の全株式は香港法人であるドン・ウーン社が保有し、同社の過半数の株式をイタルコム株式会社の代表取締役であるピエール・ルイジ・ロンバルディが保有していること、イタリア製家具の日本への輸出、販売の仲介を主要な業務とするイタルコム株式会社にとって、被告は主要な取引相手の一つであるが、被告も被告の代表者ルオーズィ・エンツォもイタルコム株式会社の株主ではないこと、ピエール・ルイジ・ロンバルディは、被告から派遣された者ではないことが認められる。

右認定事実によれば、被告とイタルコム株式会社との間に会社組織上の関連性は認められず、イタルコム株式会社を、被告の日本における支店や営業所であると認めるに足りる証拠はない。また、被告がイタルコム株式会社以外に日本において支店又は営業所を有するとの事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の右主張は、採用することができない。

(3) 次に、原告の右<2>の主張についてみるに、前述のとおり、原告は、本件請負契約の効力についての準拠法は日本法であり、本訴請求に係る本件請負契約の債務不履行による損害賠償債務の履行地は債権者である原告が住所を有する東京であるから(持参債務の原則・民法四八四条、商法五一六条一項)、民訴法五条一号の「義務履行地」は我が国となり、我が国の国際裁判管轄を肯定すべきである旨主張する。

そこで、以下、本件において、我が国で裁判を行うことが、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるか否かについて検討するに、右に認定判断したとおり、被告は日本において支店又は営業所を有しておらず、前記認定のとおり、現在では資本金九八〇〇万リラ(約七〇〇万円程度)、従業員一〇名程度の小規模な会社であること、これに対し、原告は、資本金五五〇〇万円の株式会社であり、これまで自動車の輸出入等を行っていること(甲一、一三)、また、前記認定の事実関係によれば、本件請負契約における被告の債務の内容は、日本MICの依頼を受けた乙仲業者のメルザリオ社がイタリアの被告モデナ工場へ輸送、搬入した本件自動車について被告が内装改造の本件作業を行い、本件作業を終えた本件自動車を右工場においてメルザリオ社に引き渡すことであり(請負代金も工場渡し価格で設定されていた。)、被告のなすべき債務はイタリア国内で完結していること(その後のイタリア、日本での通関手続、輸送は、日本MICの費用負担の下にメルザリオ社及びその関連会社が行っている。)、その後の交渉の結果、被告は、原告の要求に応じ、本件自動車の内装の修補等を我が国内において行っているが、本件作業に関し、我が国内において被告が修補義務を負うことは、本件請負契約上、明示的に定められてはいなかったこと、本件自動車が現在日本国内に存在することにより、原告の被った損害額の立証等については、我が国の裁判所における訴訟追行が原告にとって便宜であるが、原告が主張する本件自動車の内装等に瑕疵が生じた原因等の立証に関しては、実際に本件作業を行った職人等の証人がイタリアに居住しており、これらの証人はイタリア語を母国語としていること、その他、本件請負契約締結の経緯、履行、その後の交渉等に関する被告の防御のための証拠方法も、その多くがイタリア国内に存すること、さらに、被告が提起した本件イタリア訴訟に対し、原告は、これに応訴した上、反訴を提起しているが、その内容は、本件訴えとその内容を同じくするものであり、本件イタリア訴訟は、右反訴を含め、現に係属中であることが明らかである。

以上の諸点を総合的に考慮すれば、本件訴訟において、義務履行地として我が国に国際裁判管轄を肯定することは、被告の予測の範囲を超えるものといわざるを得ず、また、本件請負契約に関する原、被告間の紛争について、本件訴えと同一内容の反訴も含めて争われている本件イタリア訴訟の他に我が国で本件訴えを係属させることは被告に過大な訴訟上の負担を課することにもなる。してみると、我が国の裁判所において本件訴訟に応訴することを被告に強いることは、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反するものというべきであり、本件請負契約の効力についての準拠法が日本法であるか否かにかかわらず、本件については、我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるというべきである。

五  よって、原告の本件訴えは、不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋利文 裁判官 平田直人 裁判官 矢口俊哉)

別紙一~五<省略>

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